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ムーミンパパの「手帖」トーベ・ヤンソンとムーミンの世界(その3)

ムーミンパパの手帖

著 者: 東 宏治
ISBN:4-7917-6312-2

発行所: 青土社

発行日:2006年12月30日

 7 おばあさんの教育論 よりの抜粋


  • 「ソフィアが新しい反抗期を経験したその夏は、雨が多くて寒く、戸外は不愉快で、とてもいやな夏だった。それでソフィアは、よく屋根裏に孤独を求め、ダンボール箱の中に入って、ナイトガウンを見つめながら、肝のつぶれるようなすごい言葉で話しかけたが、ガウンが言い返すはずはなかった。ときにはソフィアはおばあさんとトランプをした。二人とも同じように無遠慮にやっつけ合い、二人のトランプの夕べは毎回けんかで終わった。前にはそんなことは決してなかったのだ。おばあさんはソフィアを理解するため、自分の反抗期を思い出してみたが、たった一つ思い出せたのは、自分が並はずれていい子だったことだ。賢いおばあさんは、反抗期が八十五歳という年齢までものびることがあるかもしれないと思い、なおも自分自身を監視しようと決心した。『ソフィアの夏』167/168ページ)
  • ここでおばあさんは、孫を理解するために、まず「自分の反抗期を思い出してみた」とあるけれど、このように、年齢が寄っても自分が小さかった頃の気持ちを思い出そうとする大人は少ないが、これこそ実は親や教育者たちに求められていることなのではないか。ぼくが前に、このおばあさんが生まれついての教育者のように見えると言ったのは、こういう彼女の姿を思い浮かべてのことだ。それにしても、八十五歳になっても、なお自分の体験しなかったことが今後訪れるかもしれないと考えるところに、彼女の自由な精神の真面目が表れているではないか。(P77)

 

ここで語られているソフィアのこども性を、おばあさんが自分のこども時代を思い出して理解しようとする態度は、そのまま「プレイフル・デザイン・スタジオ」で試みようとしている方法に他なりません。

つまり、こども時代やこどもの振る舞いに対する想いや記憶を、おとなである私たちが呼び覚まし、「おとなの中のこども性」として肯定することで自分たちをそういうモードに置き、その状態を維持しつつこどもを観察することでこどもから学び、「こどもOS」を発見していこうとするアプローチなのです。

私たちが思い浮かべているアプローチが、ずっと以前にヤンソンによって語られていたということに自信を深めてもいいような気がしています。

 

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